スタジオジブリの画風を模倣しても著作権法に違反しないの?~著作権の視点で考えるAI画像の問題点~

 OpenAIの対話型AIサービス「ChatGPT」の画像生成機能がアップデートされたことを受けて、スタジオジブリをはじめとする日本のアニメーションの作風を模したイラスト画像の生成が、いまブームとなっています。

 

 ユーザーが自分の写真をもとに「ジブリ風」の画像を生成し、SNSでシェアする光景もよく見られるようになりました。

元の画像 スタジオジブリ風に加工した画像

 

 スタジオジブリの作品は、優しい色彩と人間味のあるタッチ、心を癒すキャラクター、共感を呼ぶ世界観などによって、多くの人々に愛されています。こうした要素が組み合わさることで、親しまれる「ジブリ風」という表現スタイルが確立されたのです。
 OpenAI社のCEO、サム・アルトマン氏までもが、自身のXアカウントのプロフィール画像を「スタジオジブリ風」に変更しているほどの人気ぶりです。

(画像はFNNプライムオンライン2025年3月31日記事より引用)

 一方で、こうした「◯◯風」の画像生成やその拡散について、著作権侵害にあたるのではないかという懸念の声も上がっています。そこで今回は、「特定の画風を模倣して画像を生成すること」は著作権法に違反するのかどうかを考えてみましょう。
 実は、AIによる画風の模倣をめぐる問題は、数年前からアメリカでも議論されており、実際に集団訴訟にまで発展したケースもあります。アーティストたちは、AIが自分たちの画風を無断で学び、それを模倣することで、自らの仕事を奪っていると感じています。

 

 

 

(前記画像は、TBS NEWS DIGTBSテレビ「【著作権は?】チャットGPTなどの『生成AI』開発過熱の現場 混乱の種はらむ「ゴールドラッシュ」【現場から、】」2023年5月5日(金)放送番組の映像から引用したもの)

 アーティストたちのそうした心情には、深く共感できるものがあります。
 ところで、著作権法の世界では、保護されるのは実際に創作された「作品」、という表現物です。つまり、作品として完成された絵画や映像、音楽、文章などがその対象になります。これに対して、色使いやタッチ、構図といった画風スタイルは、表現のための“アイディア”の領域に属すると考えられています。

 

 「でも、アイディアも知的財産の一種では?」と感じるかもしれません。
 実は、この「アイディア」として扱われるかどうかこそが、著作権法の適用を左右する重要なポイントなのです。たとえば、特許法ではアイディアそのものも保護されますが、著作権法では、アイディアをもとに生み出された具体的な作品だけが保護されます。つまり、画風を模倣するだけでは、原則として著作権侵害にはあたらないのです。

 

 更に、模倣した画風に独自の創作性が加われば、それは新たなオリジナル著作物として評価される可能性もあります。この点も、著作権法上の重要なポイントです。

 創作アイディアが著作権法の保護対象に含まれない背景には、絵画や小説などの創作活動(流派の展開を含む)が、歴史的に優れたアイディアの継承と発展によって築かれてきたという文化的背景があります。

 


 とはいえ、画風の模倣がまったく問題にならないというわけではありません。著作権侵害と判断されるには、一般的に次の2つの要件が必要です:


   ➡ 依拠性(元の作品に基づいていること)

   ➡ 類似性(表現が似ていること)



 例えば、単にジブリの画風を真似るだけでなく、スタジオジブリの象徴ともいえる「トトロ」を生成時の参照対象に含めてAIで新たなキャラクターを生み出した場合、まず「依拠性」の要件が認められます。
 更に、その新キャラクターが誰の目にも「トトロ」に似ていると分かるような特徴を持っていれば、「類似性」も認められます。
 ここまでくると、単なる画風の模倣ではなく、元の著作物のコピーや改変にあたる「二次的著作物」と見なされ、著作権侵害となる可能性が高くなります。

 

 

つまり、著作権者の許諾なく「トトロ似」のAI作品を生成・公開することは、違法となるおそれがあるのです。

 

 「ジブリ風」に限らず、「聖闘士星矢風」や「ドラゴンボール風」など、どのような画風を模倣したAI生成でも、同様の注意が必要です。特に商業利用の場合は、著作権者の経済的利益を不当に利用することにもなりかねないため、慎重な判断が求められます。


 ところで、こうした「似せる行為」は、私たちの日常にも意外と身近にあります。
 例えば、好きなアイドルに憧れて、女子大学生がそのメイクスタイルを真似たり、男子大学生が髪型をそっくりにしたりすることもよくありますよね。
 では、もしメイクや髪型を極めた結果、「あの人本人では!?」と思われるほどアイドルに瓜二つになってしまった場合、それは法的に問題になるのでしょうか?
 実は、ここにも面白い法的な視点が隠れています。
 そのあたりも、またほかの機会に一緒に考えてみませんか。

 

 

 

2025年04月21日